第95回ピッコロ文化セミナーが8月10日、尼崎のピッコロシアター(尼崎市南塚口町3、TEL 06-6426-1940)大ホールで開催され、バレエダンサーで英国ロイヤルバレエ団プリンシパルの平野亮一さんが登壇した。
「30年前、5歳の時に踊ったピッコロの舞台が初めての本格的舞台だった」と話す平野さん。実家はピッコロシアター近くにある平野バレエスクールで、母・節子さん指導の下、4歳でバレエを始めた。高校生で国内コンクール首位、世界の若手ダンサーの登竜門であるローザンヌ国際バレエコンクールで最優秀成績を収め、英ロイヤルバレエ団の研修生に。14年のキャリアを経て2016年、最高位ダンサー「プリンシパル」に昇格し、ダイナミックで気品あふれる身体表現が称賛を集めている。
帰省した「王子」を迎えようと、大ホールの客席は満席になった。バレエファンやバレエ教室に通う人、NHK BSプレミアムで放送された「ロメオとジュリエット」「フランケンシュタイン」といった平野さん主演の舞台収録を見て駆け付けた人たちもいた。
平野さんはプリンシパルへの長い道のりについて「最初の数年間は、振り付けもない立役ばかり。小さなカンパニーならもっと踊れるのに、と周囲にも言われ落ち込むこともあったが、脇役でもいいからロイヤルカンパニーでしかできない経験をして、吸収できるものは全て吸収してやろうと気長に考えるようにした」と振り返る。
平野さんが演じてきた中で印象に残っているのは「ドンキホーテ」のエスパーダ(闘牛士)役といい、「この役で高い評価をもらった。力強さが自分にも合っていた」と平野さん。英ロイヤルバレエの代表作である「ロメオとジュリエット」ではロメオ、ロメオのライバルであるパリス、ティボルトなどさまざまな役を演じ分けた。聞き手を務めた舞台ジャーナリストの菘(すずな)あつこさんは「平野さんが演じたパリスがロメオをしのぐほど魅力的で、ジュリエットに拒まれるパリスが切なく思えたほど」と絶賛した。
昨秋の演目「マイヤリング(邦題:うたかたの恋)」で演じたルドルフ皇太子については「男性バレエダンサー誰もが憧れる、頂点とも言える役。バレエ作品としては珍しく男性の主人公であり、女性5人を相手に踊り続けるハードな役でもある。カーテンコールで自分1人にロイヤルオペラの観客全てが喝采を送ってくれるのを見て、この瞬間のためにやってきたんだと感激した」と平野さん。
日々の鍛錬については「女性は全体重を相手ダンサーに預けるので、女性から信頼されることが重要。今でもジムに通い、瞬発力や筋力を鍛えている。おかげで大きな故障もなく、一度も女性を落としたことがない」と笑顔を見せる。「休むことも大事。毎日レッスンすると体が疲れ、疲れて練習しても身にならず、時間の無駄になる。舞台当日に疲れ過ぎていては意味がない。週に1日は必ず休養を取り、オンとオフを切り替える」と平野さん。休日には自然の中を散策して写真を撮ったり、コレクションした陶器で自作の料理を楽しんだりするという。
「日本では『くるみ割り人形』『白鳥の湖』など童話を元にした作品が人気だが、『マイヤリング』のような大人の物語、人生の機微を演じるものがもっと上演されてほしい。バレエは言葉で表現できない世界だからこそ、自分の中で解釈しストーリーを描く楽しみ方がある。人それぞれ受け取り方が違っていい。正解はない。それが芸術。演じる方は考え抜いて体中で伝えようとし、踊る人が変われば表現も変わり、物語も変わる。それぞれのストーリーを味わって」とバレエ芸術への思いを語った。