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「塚口サンサン劇場」変遷まとめた書籍発売 映画情報サイト「キネプレ」代表が取材

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 阪急塚口駅近くにある映画館「塚口サンサン劇場」(尼崎市南塚口町2)を取材した本「愛される映画館のつくりかた 塚口サンサン劇場の軌跡と奇跡」が11月13日、発売された。


これまでの取り組みや、同劇場スタッフ・戸村文彦さんをはじめ、映写・接客スタッフの奮闘ぶりを取材。「戸村さんの知識の豊かさ、好奇心に驚いた。異業種からヒントを得る柔軟さや発想力が『躍進の10年』にしたのだと思う」と森田さん

 映画情報サイト「キネプレ」代表の森田和幸さんが、塚口サンサン劇場の変遷を2012(平成24)年から約10年間取材し、連載記事として同サイトへ掲載してきた内容を書籍化したもの。記事は「全11章+間章3本」で構成され、累計アクセス数は6万超え。書籍化を望む声も多かったという。

 同劇場は、1953(昭和28)年にオープンし、1978(昭和53)年に現在の名称で再オープン。街の映画館として運営してきたが、複数のスクリーンを備える大規模なシネコンとの差別化を図るため、2011(平成23)年頃から新作として上映が終了した作品の「セカンド上映」に取り組んできた。同年に行った板尾創路さん主演作品「電人ザボーガー」の35ミリフィルムによる上映が「全国で唯一、ザボーガーがフィルムで観られる」と遠方から観客が訪れ大きな話題となった。これを機に、観客のニーズを探し、吟味して選定したさまざまな映画の上映を続け、観客が一緒に歌ったり紙吹雪で盛り上げたりする「マサラ上映」、映画のテーマに合わせてコスプレなどを行う「イベント上映」、映画関係者を招いたトークイベントなど多様な取り組みも展開。全国からファンが集まる映画館となった。


塚口サンサン劇場。劇場の特徴について森田さんは「『メインストリームにいないからこその柔軟性と破天荒さ』に加え、この映画館を一緒に育てたい、良さを伝えたいと思うお客さんが多いこと」と話す

 森田さんは、キネプレのサイトを開設した2012(平成24)年には同劇場の存在を知っており、同年10月に行った「桐島、部活やめるってよ」のトークイベントから正式取材がスタート。「今後もユニークなイベントがあれば取材しよう」と考えていたが、翌年に行われたインド映画「恋する輪廻オーム・シャンティ・オーム」のマサラ上映を取材したことで、「この劇場は一味違う」と思うようになったという。

 マサラ上映取材後、日本のロボット・怪獣映画へのリスペクトを散りばめ話題となったSF映画「パシフィック・リム」のイベント上映企画を森田さんが劇場に紹介し、作中に登場する巨人兵器「イェーガー」を観客と応援する「激闘上映」を開催。その後も企画案を出しつつ通い続け、10年の長期取材に至ったという。森田さんは「サンサン劇場はイベント決定から開催までが短期間なことも多く、取材スケジュールの調整が大変だったが、目の前でどんどん映画館が進化し、お客さんが『推し映画館』を見つけて日々の活力にしていく様子を見ることができたのは幸せな体験だった」と話す。

 取材時は「外部からの目線」を大事にしたという。「『中の人』の目線だと、時系列を追った変遷の紹介になりがち。今回は自分の目線で『サンサン劇場にはこんな要素がある』と仮説を立て、その都度、担当者に話を聞いて記事を構成していったので、時系列は行ったり来たりする。劇場ファンが思う『サンサン劇場のここが好き』も無数にあったが、取材側として良さを並列しながら、『なぜ劇場スタッフはこんな考えに至ったのか』をくみ取って紹介できるよう心がけた」と話す。

 発売後、「待っていた」「10年間の変遷を取材した書籍は貴重」などさまざまな声が届いたといい、森田さんは「中には『これを原作にドラマ化すればいいのに』との声もあった」と笑う。書籍には、新型コロナ禍以降の取り組みを紹介した「12章」、同劇場でさまざまなイベント上映を展開してきたアニメ作品「ガールズ&パンツァー」の音響監督・岩浪美和さんのインタビューも追加掲載しており、こちらも好評だという。

 森田さんは「『この映画館は面白そうだ』と取材を続けていたら、いつの間にか10年。サンサン劇場について分析した本が読みたいと思ったが、なかったので自分で書くことにした。ここは人に推したくなる魅力にあふれていて、自分も『その熱にあてられてしまった1人』かもしれない」と振り返る。「街の映画館が、10年で日本中から人が押し寄せる映画館になった『物語』を追体験してもらえたら」とも。

 「愛される映画館のつくりかた 塚口サンサン劇場の軌跡と奇跡」は、「TSUTAYA BOOKSTORE 梅田MeRISE」(大阪市)などで販売中。

 

(関連リンク)

塚口サンサン劇場
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