尼崎市職員を中心とする自主研修グループ「尼崎版ナッジ・ユニット」が、設置から半年を迎えた。
「ナッジ」とは直訳すると「肘で軽く突く」という意味で、行動経済学の分野で「ちょっとしたきっかけで人々を自発的に望ましい行動へそっと誘導する手法」を指す言葉。人の行動を変えてしまう「魔法の言葉」とも言われ、ナッジを生かした戦略は企業のマーケティングや公共政策などに利用されている。
尼崎版ナッジ・ユニットの設置は、自治体レベルでは横浜市に続き2番目。課の枠を超え集まったメンバーで2019年10月にスタートした。自主研修グループならではのフットワークの軽さと自由な発想で、現在さまざまな取り組みを進めている。
土木部道路維持担当の柏木洸一さんが中心となり進めているのは、ごみのポイ捨てが問題となっているエリアにナッジ理論を活用したメッセージを盛り込んだ看板を設置し、効果を検証するというもの。柏木さんは「交通量も少なく死角になっているエリアで、ドライバーがペットボトルで用を足して捨てることも多かった。昔から啓発標識はあったが効き目はなし。近隣に大きな公園もあり、イベントなどで市外から訪れる人も多く、尼崎のマイナスイメージになると感じていた。マナーを訴えるのではなく『監視カメラ稼働中』などドキッとする内容をセレクトし、職員にもアンケートを採りながら進めている。現在は一部エリアのみだが、トライ&エラーを重ね、全域に広げていきたい」と話す。
JR尼崎サービスセンターでは、住民票の発行などについて「お近くのコンビニで」「自動交付機を使うと100円安い」といった内容の掲示物を設置し、窓口の混雑緩和や業務の効率化を図っている。同センターの岡野希咲さんは「自動交付機やコンビニ利用はなかなか進まない。ナッジ要素のあるメッセージを掲示し、利用者とのコミュニケーションを図る中で『気付いたら行動へつながっている』ように誘導することが理想。年配の方は目線が下へ行きがちなので、床にナッジ要素を含むメッセージを掲示できるようになれば」と話す。
道路に面した商店街入り口に大きく「ここからおしチャリ」というメッセージを掲示し、自転車を降りる人がどれくらいいるかの検証や、新型コロナウイルス感染拡大を受け、足形などを施しソーシャルディスタンスを確保する取り組みも。財務部ファシリティマネジメント推進担当の杉原竜太さんは「メッセージを変えながら検証を重ねることが大事。すぐ撤去できるように剥がせるテープで描いている」と話す。
こども青少年課学びと育ち研究担当の江上昇さんは「課は別々だが、『職場に生かせそう』『面白そう』という思いで集まったメンバーで発足した。ナッジを考えるのが当たり前になり、誰もが意識して行動できるようになれば」と期待を込める。